ラブボンボン3



















先輩の俺の情報といったら、中1の時は球拾いだし体操着だしで
非常に見せたくない場面しか記憶がない。
俺が一年の時、先輩が三年。
なにかと差異がったり、憧れとかもあったりした。
数回、告白されてる先輩を見て嫉妬なんかもしてた筈。(クソ)









俺は先輩にずっと恋焦がれていたんだ。

















片思いが実って良かったと思う。
今日は14日。
朝から気持ちが落ち着かない、放課後は先輩と逢う事になっている。
やっぱ、少しは期待しちまうのが男ってもんだろ。
部活後に会うんだけど、汗臭くねぇかな。














ロッカーに渡されたチョコレートを詰め込んでいたら、隣で不二先輩も同じ事をしていた。





「なんか今日は変だね、海堂くん」

「んな事ねぇっす…」

「そう?こないだ、あの公園で可愛い誰かさんとお話してたのは何処の生徒だったかなぁ」

「へ?」






俺をロッカーに追い詰めて、あの笑顔で。
背中に冷たい汗が伝う。
なんだって、この人はこうも摩訶不思議なんだろう。




「僕、見てたんだよね。全部」




「そ、そうっすか…」




「今日がバレンタインだよ?」




俺はそそくさとバンダナを巻いて、不二先輩の脇をすり抜け部室出た。



あ、ラケット。


いつもの練習をして、いつもの疲労感。
冬の空気は冷たく吐き出す息は白い。
水飲み場の水はひんやりと喉に流れる。
今日も増して気温が低い。





俺は早く着替えて先輩を迎えに行くつもりだった。
先輩たちがコートの入り口で騒いでいる、なんかあったのか?
気になって視線をそこにやると、先輩がケラケラそこで笑っていた…。








なんでここにいんだよっ!!!








目眩がする、なんだってアノ人は…。
俺!どうする?近寄らない方が良いよな、見つからない様に壁に隠れつつ部室に戻ろうと思う。
なにやってんだ、俺。





「あっ!海堂くーーーーーんっ!!!」



ちっちゃい手を振って俺の方を見る先輩、可愛いよな。
じゃねぇよ!
呼んでるから行かないと。
足取りが、重い。









「どうした海堂、顔がいつもに増して怖えーな、怖えーよ」

「るせぇっ!」

先輩、今日はどうしたんですか?」

「そうだよな、珍しいよね青学に来るなんて」

「今日はね、デートなの」





「「デート!?」」


声を揃えてみんなが騒ぐ。
血の気が引く俺。
その場から立ち去ろうとすると、後ろから黒い視線を感じた。
振り返ると案の定、不二先輩。
見なかった事にしよう…。




「誰とっすか!?」

先輩、青学の男と付き合ってるんですか?」

「まじ?うわぁぁぁ…ショック!」






俺だよ、俺と付き合ってんだよ。
もう、こんな空気は嫌だ、重い!
言うべきなのか、俺の口から言うのがベストなんだろうな…。
よし、言おう。









「お……」



「今日はね、海堂くんとデートなのよ」





先輩、思いっきり俺をムシした発言だな…。








急いで着替え、逃げる様に先輩の手を掴んで学校を後にする。
あんなとこに先輩と長時間いられなかった。
学校近くの駐車場でやっと止まる。
先輩は息を切らし、目を真ん丸くして俺を見ていた。






「先輩、学校来たらダメって言ったじゃないすか…」

「なんでー?だって、迎えに行こうと思ったからさぁ」





ローファーで足元の鉄板をカツカツ蹴ってスネてる。
なんつーか、怒ってる訳じゃねぇんだけど…。



「俺が迎えに行きますから、今度からそうしますから」

「あ、ちょっとは私の事心配してくれたりしたー?」

「まぁ…そうっすね…」





先輩の俺を見上げる目が、すげぇ可愛くって思わず見とれてしまった。
やっぱ、テニス部の奴らには関わらせたくないなと実感する。
俺が先輩と付き合ってんだ、くそ…。












線路沿いを二人並んで歩く、特に会話はなかった。
てか何話せばいいんだ?
先輩は道にいる猫をいつまでも目で追っていた。
電車が線路を軋ませる音と差し込む真っ赤な夕日、先輩の頬が桃の実みたいに見える。









こういうところが、この人は変わってない。




「今日さ、どうしよっか?」

「え、あっ…どうします?」

「私も何も決めてないんだよなぁ」






こういう場合、どっか連れてったりするのが普通なんだろうけど何も頭に浮かばない。
立ち止まって、周りを見回したりする。
正直、俺は先輩といれるだけで嬉しかったりすんだけど。





ホコホコと先輩の唇から白い息が漏れる。





「すんません、俺なにも決めてなくって…」

「いいよ、私もそうだし。こうやって歩くのもいいかなーなんて」








「ねぇ、お願いがあるの。」




ふいに先輩が俺を見て言う。
改まって、こう言われると場合によっては却下したくなる。
何を怯えているんだ、俺は…。




「な、なんすか?」

「私といる時はって呼んだりしてみない?」

「えっ、そんな…いや、ダメっすよ…」

「なんでー?だってだって恋人同士じゃん」

「なんつーか…まだ早いっス」

「お願いー、お願いっ!じゃ練習してみようか?」

「練習って、出来ませんよ」

「海堂くん練習するの好きじゃない、うひひ」

「そうじゃなくって…」







さん、ハイって言われてもなぁ。





………先輩」




「…呼び捨てとかされてみたかったんだよなぁ」








そんな目で俺を見たって無理っす。
なんか瞳が潤んでねぇか?





「じゃ、じゃぁ…練習、しときます…」

「私も海堂くんの事、薫くんって呼ぶ練習するから!一緒に練習。明日から呼び捨て40回。」

「(勝てねぇな…)」








女の名前を部屋でぶつぶつ唱えている人間なんて不気味だなとか考える。








川べりにある東屋に腰を下ろし、水面を眺める。
デートってこういう事なのか。
先輩は俺の顔を見てニコニコ笑う。
なんでか、そっちを見れない。






先輩は高校に行ってから、やっぱり少し大人っぽくていい匂いがした。
でも、このスカートは少し短すぎるんじゃないか?とか余計な事ばかりが気になってしまう。






そういや黒だったな、とか。








「海堂くんから貰ったチョコ、すっごくおいしかったよー」

「あ、あれは…忘れて下さい」

「嬉しかったよ、うん。ありがとうね」





先輩は男の子から貰ったのなんて初めてと、ちょっと照れた面もちで俺を見る。
暗みかけた川縁の外灯が彼女の輪郭を白く際立たせる、俺しか見てない黒目がちで大きい瞳。
俺しか見てない先輩の、この表情。
この至近距離。



「喜んでもらって…俺も、嬉しいす…」

「今日いっぱい貰ったんだろうけどさ、私も持って来たんだよね…今日の為に」










やべ、すげぇ胸が高鳴って来た。
俺は先輩から急に視線を外す、カバンの中をがさごそと探す音だけが聞こえる。








「これ…初めて作ったんだけど、貰ってくれる?」




俺は正直、何が何だか解らなくて声が出せ無かった。
彼女が差し出した小さな包み紙、ピンク色のリボンで閉じてある。







「こんな事すんの初めてだからさぁ」




思わず両手で受け取る。
先輩の手作りチョコが俺の手の中にあるんだ。








バレンタインなんて今までは嬉しくもなんともなかった、朝は下駄箱、机。
強引に押し込まれて変形したチョコレートを見てウンザリしていた。
部活に出ればコート近くで騒ぎまくる女子。
小さな戦争があちこち。
部員のみんなの邪魔すんなしか思ってなかった行事。




けど、先輩から貰ったこれは違う。
好きな女からの贈り物って、こんなに嬉しいんだと実感する。









「甘い物、あんまり好きじゃなかったかなぁ?」








やばい、今すごく先輩を抱き締めたい。
なんでこの人は、こんなにも俺のなにかを揺さぶるのだろう。
俺は先輩のちょっと蒼みががった幼い白目が好きで、
苺みたいな唇とか何やらが大好きでたまらなかったんだ。
そんなものが俺の頭の中を滅茶苦茶にかき乱す。





「ん?どしたの?」

先輩っ…」










冷たい風が頬を撫でる、しかし顔だけは熱を帯びていた。
見つめ合う、時間が遅く流れていた。




「どした?あ、嬉しくって声出ないのかな?」

「…いや、まぁ、ハイ。すっげぇ嬉しいっす」

「海堂くん、照れてる顔。かわいいねぇ」






先輩はそう言って俺の頬をペタペタと叩く。
今、こんな状態になった俺に触れるのは非常に危険だ。
なんとか自分を押さえて頭を切り替える。


















「さて、そろそろ暗いし。帰ろっか」

「は、はい。」

「近くまで一緒に帰ろ」

「ッス」








線路脇をまた二人で歩く、俺は熱くなった顔を早く冷ましたかった。
夜になると一気に気温が下がる、先輩の右膝は新しい絆創膏。
もう片方の膝は寒さにほんのり薔薇色に染まる。
あの日に出会えて、本当に良かった。
先輩がコケたのは良くなかったけど。






「今日は楽しかったよ、ありがとう」

「俺も、っす」

「部活とか無い日に、また遊ぼうね。電話もしてよね」







足並みが揃う二人、先輩がカバンを持ち直してエヘヘと笑った。
紺碧の空、雪が降らない東京の冬。









高架下を抜けると二人が別れる道に差し掛かる、もうすぐそこで先輩と別れる。
俺は平常ではなかった、正直まだ先輩といたかったからだ。
遅い時間まで引き回すのは良くない事だとは解っている。
さっきの感情をまだ引きずっていたからだ。
寒さに張りつめた空気、緊張と焦り。







俺はぐっと身体に力を込めた。













「せ、先輩っ…」





外灯も疎ら、そんなに明るくない歩道で彼女を引き寄せる。
冬物のコートに隠れた肩が細い、俺は我慢出来なくなって先輩をきつく抱いた。
ふわりと鼻腔をくすぐる先輩の甘い匂い。







先輩…」

「ん、」




息苦しいのか、いつもより声が細い。
耳元で聞こえる先輩の声が感情を高ぶらせる。
女を抱き締める力加減なんて俺。
わからねぇけど。












先輩の事、待ちすぎましたよ…」





白い息となって漏れる声。
眼下にある形の綺麗な頭を手で覆い、自分の胸に深く埋める。
身体の中に収まった先輩は、キュッと俺の腰の辺りを掴んだ。









「待っててもらえて、良かった」





暫く抱き合い、お互い顔を見合わせる。
言葉じゃ言えないけど、ずっとこうしていたいってのが本音。
先輩の瞳が揺れていて、俺はちょっと驚いた。









「また、ね。」

「っス…」











腕を解くとか、名前を呼ぶ、とか。
いろんな瞬間が俺には難しいと思った。





















俺は自宅に戻り、母親に今日の報酬を尋ねられたが無視して自室へ籠もった。
急いでテニスバックの中から先輩に貰った包みを取り出す。



夢じゃねぇんだよなぁ。



リボンを解き、薄いパラフィンを剥がす。
中には小さなハート型のチョコレートが数個、一つ取り出す。


















ガリッ!


























「ん?」








チョコレートの中には、俺がいつも愛用しているサプリメントがぎっしり詰まっていたのだった。
暫く噛み砕いた錠剤の断面を見る。






















これは彼女なりの愛だと、思う。

















終わり。












初めて長篇っぽいのを書きました。
非常に難しいなぁと思いました、とりあえずめでたし。
余談ですが、この季節に不二先輩がいる事には触れないでいて下さい。















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