ミルキーマンデー
















持て余す夜の時間、夏休みの午前2時。
テレビだって何もやってない、私はそこいらに脱ぎ捨ててあった服を取り着替えた。
じっとりと熱い夜に外に出てみる。
私は寝静まった家族に気付かれない様に玄関のドアに鍵をかけた。
自分の家の回りには誰もいなく、犬の息使いまでもが聞こえてきそうな静寂。
マサカリみたいな月がちょっぴり恐かったの。








『まだ起きてる?』




小銭の投入口に小さな蛾がとまっていて、ガンと脚で蹴ったらフラリと舞った。
私は携帯を取り出してメールを打ってから、自販機でカルピスを買う。
通りがかがかったコンビニにたむろってる男の子達。
しっとりと汗ばんだ手に握られた携帯が震える。
乾からメールだ。





『まだ起きてるよ、どうした?』







嬉しくなってヒヤリとする缶を脇に挟み、返信する。




『今から会えないかな?』





クラスの中で、話してても楽しい。
深入りはしてないし、ただ気持ち良い関係。
私と乾は仲良し。
深入りってナンだ?








サーッと水の音が涼しくって待ち合わせの橋の縁に座る。
スカートだけど、お構いなしで膝を抱えてカルピスを飲んだ。
熱と空気が飽和してる夜。














「こんな時間に出歩くなんて感心しないね」







右方向から闇にとけた低い声が聞こえる、乾だ。
彼の手にはノートが一冊、なんでこうも期待を裏切らない男なのだろう。
今更だけど露出してる腕にドキリとした。






「なんか眠れなくなってさ」

「危ないだろ、そんな短いスカートでプラプラしてたら」

「大丈夫だよ、こんな夜中じゃ」




私は立ち上がり、川べりに行こうと乾を促した。
暗闇の河川は時折通る車のライトにギラリと光り無気味に見える。
足下の中背の草が剥き出しの足首に刺さってくすぐったかった。
乾は気をつけろよ、と笑ってる。
















「それさ、つっこむトコだよね?」

「ついでだから課題やってしまおうと思ってな」

「課題?」

「星の観測の課題、あっただろ?」

「めいっぱい忘れてたよ、今度見せてね」

「受諾は出来ないね」





今日は星がキレイだ、と言って乾は真上を見たまま喋らなくなった。
ペンライトをくわえて手元を照らしてノートをとる。
用意良すぎて笑えてくるよ。








「なんつーかさ、女子と二人きりでさ。夜でしょ、どうなの?」

「んー?うん…」









会話終了。



















私はしゃがんで足下の雑草をブチブチちぎりまくってやった。(ヤケッパチ)
くそぅ、乾じゃなくて英二にメールすりゃ良かったかな、でももう寝てるかな。
なんで乾だったんだよ、判断悪すぎじゃない?
あ、ハラたってきた。
残りのカルピスを一気に飲み干す。












は何で俺、呼んだんだ?」




急にペンライトで私の顔を照らすので、眩しくて目を細めた。
びっくりして後方に軽く倒れる体、まぁ尻もち。
乾には表情がないと思った。






「ん?…なんとなく。だと思う」

「俺だったら慰めてくれるんじゃないかって思った?」

「そういうんじゃないけど…」

「急に夜中にメールくるから、に何かあったかと思ったよ」






あまり心がこもってないと即座に解った、すぐに乾は水面にライトをあてて遊んでいたからだ。










「なんだろね、今夜は乾に会いたかったんだと思う」

「それ、告白か?」

「わかんない、なんだろ。夏休みで乾の顔、見てなかったからじゃないかな」

「ちょっとは安心した?」









私の作った草の山の近くにしゃがみ、乾はうなだれた頭を撫でてくれた。
胸が熱くなって正直このまま抱き締めてやろうとか思う。
でも体が動かない、泣いてしまいそうなのを必死に堪えていたから。








「顔、あげてよ。どうした?…」

「なんか乾ムカつく」

「なんだよ、それ」

「むちゃくちゃなのは解ってるんだけどさ、テニスばっかじゃん、乾…」

「それはそれ、これはこれ。だろ。そんな不器用じゃないんだけど」











膝に熱い涙が落ちて、私は顔を上げた。
目線を合わせて乾がそこにいる、ずっと一緒にいたいなと思える人がいる事に感謝したい。
あー、もう可愛いな。と言って乾は私の涙を指で拭ってくれた。














「泣いてる顔が好きって言ったら怒る?」

「複雑」

「まぁ、どんな顔でも好きだけどね、の事は」







乾はほら、立って。と言って小さな子を持ち上げる風に私を直立させる。
脇腹に彼の手が差し込まれた時、ちょっと恥ずかしかった。










「段階として、恋人どうしのスキンシップなんてどうかな」

「うげ、(初体験が川だなんて!)」

「ま、これからも宜しく」







乾の顔がゆっくりと近付いてきて、頬に軽くキスをした。
そこからジワジワと熱が伝わって、耳まで紅潮してくのが自分でも解った。












「最初は、こんなもんでしょ」







妙に余裕綽々な笑みが彼らしくて、ウソの不機嫌顔なんて出来なかったのです。













終。







久々に乾サン。
乾サン大好きです、愛おしいの。
さぁ、早く夏にならないかな。





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