願い事








部活中赤澤部長に、お祭に行こうって誘われた。

今日は七月七日。
寮の近くの公園で七夕のお祭がある。


夕食が済んだら寮の玄関で待ち合わせ、って言われて
部長の事だから、てっきり大人数で行くものかと思っていたのに…

待ち合わせ場所に来ていたのは部長ただ一人だけ。


「遅ぇぞ」
微笑みながらそう言って歩き出す。




俺とふたりで行くつもりで誘ってくれたんだ…

すごく…嬉しい。




ドキドキしながら部長の隣に並んで歩く。


ちらりと横を見ると、俺よりずっと高い位置に肩があって
更に見上げると、部長の整ったキレイな横顔が見えて…

ドキッとして、思わず顔を伏せた。


(やっぱり部長ってかっこいいなぁ…)

そんな事を思って一人黙り込んでいると


「どうした?今日はやけに大人しいな」

そう言って俺の頭に手を置く。


「あ!すいません!考え事してました」

驚いて振り向くと、部長はじっと俺の顔を見下ろしていて

「どうかしました?」

聞くと、


「お前…小せぇよなぁ」


今更そんな事をしみじみと言われてしまった。

小さい事…何気に気にしてるのに、背の高い部長に見下ろされながら言われるのは、他の人に言われるよりもダメージが大きい…。


「俺だって…もっと大きくなりたいって思ってるんですけど…。どうしたら部長みたいに背高くなれるんですか?」

憧れの部長に少しでも近づきたいから、背を伸ばしたいって本気で思った。




だけど、部長の返答は…


「…別にそのままでいいんじゃねぇの?俺、小さいの好きだし」



………。

(俺=小さい)
(部長→小さい)=(部長→俺)

頭の中でこんな計算式が勝手に出来上がってしまい…


「えっ!?…あ…はい、じゃあ…このままでいます…!」

動揺してつい本音が出てしまった。




部長は切れ長な目を一瞬丸くして

でもまたすぐに細めて…


「お前、素直すぎ」

耐え切れぬ笑いを零しながら俺の頭をポンポン叩く。




俺は言ってしまった自分の言葉の恥ずかしさに、顔を真っ赤に染めた。


「す…すいません…!」

言葉が出てこなくてつい謝ってしまったけど、


悪いのは俺じゃなくて部長だと思う…。






──…別にそのままでいいんじゃねぇの?俺、小さいの好きだし…──



こんな事言われたら…誰だって勘違いしちゃいますよ…。






………。


俺の事、少しは好きなのかな…って





勘違いしちゃってもいいんですか…?














「お、見ろよ。短冊吊るしてるぜ」

話しながら歩いているうちに俺たちは公園のすぐ側まで来ていて、部長の指差す先には、
色とりどりの短冊に包まれた大きな笹竹が見えた。

公園の中も周りも、たくさんの人の賑やかな笑い声が響いている。



「部長、願い事書きに行きましょう!」

お祭の熱気を感じて、公園に向かう足が自然と速くなる。


「願い事?お前、何書くんだ?」



………。

俺の一番の願い事は、部長に振り向いてもらう事だけど…そんな事、短冊に書けるわけないし……何書こうかな…?


「秘密です。こういうのは人に言っちゃだめなんです!」

書くこと決めてないけど、とりあえず秘密にしてみた。



「ふーん、相当大事な願いなんだな」

部長は優しく微笑みかけてくれる。



“秘密”って言ったら大抵の人は更に探りを入れてくるものなのに、部長はこれ以上突っ込んでこない。



部長のそういうとこ…すごく優しいなって思う。









すごく…すごく……大好きだなって思う。














俺たちは公園の中央に置かれた笹竹の前にたどり着いた。

お祭に来た人が願い事を書くための、白紙の短冊もたくさん用意されている。


「さて、何を書くか…」

部長はペンを握り締めて考え込んでいる。



俺も考えなきゃ。




………。

考えても、考えても、出てくる願いは部長に関わる事ばかり。




本当は、“部長が俺の事好きになってくれますように”って書きたいけど…もしも俺が書いたって事が誰かにバレてしまったら…。

そう思うとやっぱりどうしても書くことができなかった。




「金田、書いたか?」

部長は既に書き終えた短冊を手に持っている。


「すいませんっ、もう少しで書けますから」

これ以上悩んでも書けそうにないし、無難に自分の健康でも願っておこうかな…。



………!
健康……そうだ!


俺はスラスラとペンを走らせ、短冊を書き上げた。


「出来ました!」

「おう、吊るしに行くか」

短冊を吊るすために、ふたりで笹竹の前に並ぶ。



俺は大きな笹竹の上の方に吊るす事に決めて、目一杯背伸びをして腕を伸ばした。


「金田…?下の方にも吊るせるぞ?」

「上がいいんです。上の方が、願いが叶いそうな気がしません?」


そう言うと



ヒョイ、と

部長は俺の手から短冊を抜き取った。

「やってやるよ」

背の高い部長の方が上に吊るせるのは明らかで、当然善意で言ってくれてるんだろうけど…


「わ!だめ!部長っ、返してくださいっ!!」

部長にだけは絶対に願い事を見られたくなくて、必死に訴えて返してもらった。



俺の取り乱し様に、さすがに部長も少し驚いている。

「別に見やしねぇぞ。…ていうか、そこまで大事な事書いてんのか?」


「は…はい、大事な願い事なんで、自分で吊るしたいんです」

見られると困るとは言えず、話を合わせてごまかした。




「だったら…」

部長は俺の背後に立ち、そのまま屈んで…



「うっ、うわぁっ!!??部長っ!!??」



俺は部長に肩車されてしまった。


「これならてっぺんに吊るせるだろ?」


それはそうだろうけど、中学生の男ふたりで肩車なんかしてたら、ものすごく目立ってしまう。
当然周りの人たちはジロジロ俺たちを見ていて…、とにかく…とにかく…、恥ずかしいっ!



「やっ…部長…っ!降ろしてください!」

俺は無理やり降りようとして…



「わ、金田っ…危ねぇって!」

バランスを崩して…





どすん!


ふたりして地面に崩れ落ちた。




「……ってぇ…」

「…す…すいません…」


体を起こして部長の方に目をやると




………。

部長も上半身だけ起こしていて…


俺の短冊を手に持って、じっと眺めている。



「あ…悪ぃ、ここにあったの拾ったら…つい目に入っちまって…」




俺は顔が真っ赤に染まった。


だって俺の書いた願い事は…














“これ以上、背が伸びませんように”









どんなに部長が鈍感でも、俺の気持ちはもう絶対バレバレで…


どうしようもないくらい恥ずかしくて…




このまま走って帰ってしまおうかと思った。





けど、




俺が俯くと、地面に落ちている部長の短冊が目に入って…


































“金田と付き合いたい。赤澤吉朗”









「俺のも見られちまったな」

照れたように髪を掻き揚げる部長。




「…なっ!な、な、何書いてるんですかっっっ!!??」


俺の事名指しで…しかも自分の名前までしっかり書いて…!




これは嫌がらせですか!?









…なんて、
部長がそんな事するはずない事くらい分かってる。



冗談でこんな事書く人でもない。









俺たちは少しの間見つめ合っていたけど


周囲の人たちの視線が痛くて、とりあえず人ごみの外に移動した。














お祭の賑わいを遠目に見ながら、ふたりベンチに腰掛ける。


「どうして…こんな事、書いたんですか…?」

俺は部長の短冊を持ったまま、それに書かれている文字を眺めた。




「…願い事っつったら、それしか思い浮かばなかった」

部長は真っ直ぐ俺を見つめて…



「それ叶えられんの…お前しかいねぇよなぁ」

ちょっとイジワルっぽく笑って言う。






「叶えてくれるか…?」

今度は少し低めの真剣な声で。






俺は自分の顔が真っ赤に染まっていくのを感じながら…



「………はい…」


目を見て答えた。







「七夕ってすげーな!本当に願い叶っちまうんだな!」

そう言って思い切り抱き寄せられた。



「ぶ、部長っ…!誰かに見られたら…」

言いかけたけど、

今までで一番近い距離に見えた部長の顔が、すごくすごく嬉しそうに笑っていて…



俺も嬉しくなって



そのまま、少しの間部長の胸に体を預けた。









お祭の人ごみから少し離れた薄暗い木陰のベンチ。


「…大好きです」


小声で言うと





「俺も、好きだ」






…背ぇ伸びても好きだからな。


そう付け足されて、ふたりで少し笑ってしまった。









本当に七夕ってすごい。

短冊に書いた願い事だけじゃなくて、心の中に閉じ込めておいた願いまで叶えてくれるんだ。




でもこんなに効き目があるって事は…

もしかして俺…もうこれ以上背、伸びなくなっちゃうのかな…。



さすがにそれはちょっと嫌かもしれない…。







すいません…お星様、

願い事のキャンセルって有りでしょうか…?









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初の赤金小説です!
でも自分の中では毎日散々赤金妄想しまくってるので、初めて書いた気が全然しません…。(笑)

赤金大好きです!大好きなんですよ!本当にもうどうしようってくらい!




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