White Lights








12月の寒い夜。

隣にお前がいてくれるだけで


俺はこんなに温かい。





肩が触れそうで触れない微妙な距離で、俺たちは並んで座り窓の外を見ていた。

天気予報では今夜は雪になるらしい。


この冬最初の雪を一緒に見ようと言い出したのは金田。
降りそうで降らない雪をこうしてじっと待っている。


「早く降らないかな」
期待にふわりと笑顔が零れる。


とても寒い夜なのに、お前の笑顔を見ているだけで
俺はこんなに温かくなれる。


「そうだな、早く見たいな」
微笑み返すと、お前はまた笑顔を返してくれる。








今年の秋ルドルフに転入して
金田と出会って


初めは仲良くする気なんてなかった。


他人との関りを避けていつも不機嫌そうにしている俺に、金田もひどく戸惑っていて…

けれど、同じテニス部という事で同室にさせられて責任でも感じていたのか
俺がどんなに突き放しても、金田はためらいがちの笑顔で俺の側に来た。


いつもオドオドしていて、初めは本気でうざかった。


だけど、ビクビクしながら一生懸命俺に歩み寄ろうとするコイツの姿が妙に可笑しくて

つられて初めて俺が微笑み返した時



お前も初めて心から嬉しそうに笑ってくれた。



その真っ白な笑顔が忘れられなくて
いつもその笑顔でいて欲しくて


それから俺は、少しずつ自然に笑うようになっていた。
























これが愛だと気付いて






もしも言葉にして









お前は…どれほど分かってくれる…?














「ね、外に出てみない?」

時計は既に11時を回っていて、当然寮の門限なんかとっくに過ぎている。


「バレたら怒られるぞ」

「だって待ってるだけなんてやだよ。本当に見たかったら自分から行かないと」


真剣にそう訴える金田から、本当に雪が見たいという気持ちが伝わってきて

俺は窓を開けて外気の冷たさを確認した。


「かなり寒いな。…ちゃんと暖かい格好しろよ」

「うん!」

俺の好きないつもの真っ白な笑顔で答える。




俺たちは窓からこっそり抜け出して、近くの公園に向かって歩いた。

「やっぱり寒いね」

白い息を吐きながら、それでも嬉しそうに言う金田。


俺も嬉しい。



大好きなお前と、誰にも内緒で夜中の散歩。


とても大切なふたりだけの秘密の時間を

一歩一歩かみ締めるようにゆっくりと歩いた。



この時間が永遠に続けばいい、とさえ思った。



だけど、ほんの10分ほどの道のりはすぐに終わりを告げ

結局雪は降らないまま、目的の公園に到着してしまった。



「降らないね…」

しょんぼりと金田はベンチに腰掛ける。


「…そうだな」

俺も隣に座る。







夜の公園はとても静かで

真っ暗で

俺たちがここにいる事は誰も知らない。



誰も見ていない。




少し手を伸ばせば

金田の体に触れる事はとても容易い。


手を握ったり、寄り添ったり…

寒い事を理由にすれば



それらはとても簡単な事で…。






好きだから触りたい。











けれど



好きだから触れない。









「不二、手出して」
「…?」

言われて金田の方に手を差し出す。


手のひらに置かれたのは、じわりと熱いかたまり。


「カイロ持って来たんだ。温かい?」

「温かい…けど俺そんな寒くねぇから、お前持ってろよ」

カイロを金田に手渡す。



きゅ…。


金田の手が、カイロごと俺の手を握った。

ドクン…ッ。



「…ふたりで持ってよ」

にっこり笑う金田。


金田に触れられるのはすごく嬉しいけど

ためらわず俺に触れるのは






俺を意識していない証拠。





だけど金田の指先はとても温かくて

俺は黙ってきゅっと握り返した。






金田…










好きだ




好きだ




好きだ…





心の中でなら何度でも言える。


好きで好きでどうしようもない気持ち
心の中で何度呟いても






決してお前には伝わらない。







「不二…」

呼ばれて金田を見るが、俺の方を見ていない。


金田の視線を追って上を見ると


「…あ」

真っ黒い空から真っ白な粒がふわりふわりと落ちてきた。



「…雪だ」











静かに降り出す雪は、素直に心を包んでいく。







「…キレイだね…光がいっぱい落ちてくるみたい…」




黒い空を煌く空に変える光の粒は、幻想的に舞い降り



俺の心を真っ白に洗い流す。



















「好きだ…」










空を見上げたまま

手をつないだまま



息を吐くのと同じくらい自然に、想いが声になった。




何も言わない金田の方にゆっくり顔を向けて



「俺…お前が好きだ」



今度は目を見てはっきりと伝えた。


金田は黙ったまま驚いた目で俺を見つめる。







少しの間見つめ合っていたけど

金田は何も言わず














それが答えなんだと理解した。









後悔の気持ちは少しもない。


つのる想いで飽和状態だった俺の心は

想いを伝え、解放され





とても清々しかった。














「よし、雪も見れたし帰るか」
金田の返事を待たずに立ち上がる。


つないでいた手も離した。


「…うん」
戸惑いながら金田も立ち上がる。





来る時は隣に並んで歩いた道。

今はほんの少し距離をあけて俺の後ろに金田が歩く。


雪は絶えず降り続いて


「…寒いな」


独り言のように呟いた。









しばらく黙って歩いて




ふと、後ろから足音が聞こえない事に気が付いて振り返った。

金田は10メートルほど後ろで立ち止まっている。


「…やっと気付いてくれたね」

金田の顔が悲しそうに見えるのは夜の闇のせいだろうか。

「金田…?」



「先…行かないでよ…。俺を置いて…一人でどんどん先に行かないで…」

涙声になっている気がした。



「告白して…一人でスッキリして…不二ずるいよ」



金田が何を言いたいのかよく分からない。

けれど、不可解な言動の原因が俺の告白にあるのは…きっと間違いない。



「…告白なんかされて…嫌だったよな…ごめんな…」

謝る事しかできなかった。





距離を置いているから俺の声が聞こえなかったのか

金田は黙っている。






「とにかく帰ろうぜ。風邪ひくぞ…」

そう言って金田の側に歩み寄る。








「…今日…どうしても不二と一緒に…雪、見たかったんだ…」

俯いて肩を震わせている。




「…もし今日…初雪が降ったら……俺…不二に告白しようって決めてた…」


………。

告白…?


金田が…俺に…?




「…何だよ…それって……じゃあ…」

「違うっ!」
金田はとっさに俺の言葉を遮る。


「…違うよ…俺……不二の気持ちを受け入れたわけじゃない…」



「ちょっと待て!金田の気持ち全然分かんねぇよ!俺の事好きなのか?好きじゃねぇのか?どっちなんだよ!」



金田は今にも泣きそうな顔で震えながら俺を見つめて…








「…俺……不二が好き…」




小さな声で…それでもはっきりと言ってくれた。














「だけど…不二の気持ち…受け入れるのは……できない…」









「…分かんねぇよ……俺の事好きなのに受け入れないって…何なんだよ…」


意味が分からなくてイラついて、だけど精一杯感情を抑えて言葉にした。







「…だって……片想いだと思ってたから…フラれて、それで終わりにしようって思ってたのに、………何で…不二、俺の事好きなの…」



言いながら、ぽたりぽたりと涙が零れ落ちた。




初めて見た金田の泣き顔。









俺が泣かせてるのか…?



そう思うと辛くて、辛くて…








衝動的に金田の体をきつく抱きしめていた。






「不二…やめて…お願い、離して…!」




「泣いてるお前、離せるわけねぇだろ。絶対離さねぇ…!」








何とか離れようと、金田は両腕を突っ張ろうとするけど

俺は抱きしめる腕に更に力を込めて、それを制した。









金田は観念したように力を抜き、俺の腕の中で話し始める。




「…俺たち……男同士なんだよ…どんなに好きでも…いつか辛くなる…。


好きの気持ちがこれ以上大きくなったら…耐えられないくらい…すごく辛くなっちゃうよ…」









だからそうなる前にこの恋を終わらせようっていうのか?









「馬鹿かお前っ!?すっげぇバカ!何考えてんだよ!」

金田は濡れた瞳をきょとん、と開いて俺を見る。







「俺はどんなに辛くなったって、金田が側にいてくれたら…それでいい!…先の事なんて分かんねぇけど…でも、俺はずっと…お前の側にいたい…」




「…でも怖いよ。こんな関係、誰にも言えないし…誰にも認めてもらえないんだよ…」


言いながら、また俯いてぽろぽろと涙を零す。








俺は金田の頬に手を当て、まっすぐに目を見つめた。


「辛くなったら俺が支えるから、…こうやって温めてやるから…」





金田は頬に当てた俺の手にそっと触れて


「………温かい…」





少しだけ安心したようにそう言ってくれて…





「俺が辛い時も温めてくれるか…?」


聞くと、










金田も片手を俺の頬に伸ばして










「……温かい…?」














返事の代わりに薄く微笑むと














涙で濡れた瞳を少し細めて、金田も柔らかく微笑みかけてくれた。



















綺麗だけど、とても冷たい雪の中




俺たちはお互いの温もりを確かめ合うように



















唇を合わせた。













金田の唇は、すごく柔らかくて温かくて






















終わりなんかどこにもないような気持ちになれた。









辛くても怖くても、お前とふたりで温めあえば生きていける。












手と手を重ね、お前とふたりで生きていく

















俺は明日に



お前だけを見ている。









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accessのアルバム"Rippin' GHOST"内の"White Lights"の歌詞を引用しまくりました。
ヒロの歌詞は本当、あたしのツボをギュウギュウ刺激してくれるんですよ。大好きです。

しかし、くっさい話ですみません!
クサイ話は恥ずかしいから、意識して書かないようにしてたんですが、
ここんとこずっと小説書いてたせいで、何だか調子に乗っちゃって
つい、クサイ話好きの本性が出てしまいました!(汗)

恥ずかしいんですけど、乙女な話とか…クサイ話とか…大好物なんですよ。(赤面)

あと、好きなキャラを泣かすのも大好きみたいです…。




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